今日の地球環境問題は先進国での大都市化がもたらした経済社会システムやライフスタイルに起因しており、今やBRICsを中心に途上国での大都市化が加わって問題は一層深刻となっている。
この状況に対して、これまでは、主に衛星観測による全地球規模の巨視的データで分析していたために実効ある処方箋を示しきれずにいた。本来は、原因となっている大都市部やその影響地域におけるデータをミクロに取得して分析し、大都市社会の活動による消費と周辺自然環境による恩恵と、いわば需要と供給の概念で捉えて両者のバランスを計るための具体的な処方箋が求められている。
そこで、21世紀に入って急速に普及したブロードバンドとデジタルデバイスによる技術連携が、特に、大都市部でその利用コストを十分に低減させ、稠密で高度なモニタリングを可能としている点に注目したい。デジタルデバイスが高度化した恩恵を、デバイス単体ではなくネットワークで繋げて組合せることによって、意味ある情報協調やエラー修正等を容易かつ適正に実現できるようになり、最適な実データ観測が可能である。
加えて、インターネット社会が形成された事により、大都市に住む大多数の人々やコミュニティの連携も可能となっており、データを単なる数量やテキストから情報や智識にまで高めて共有する事により、人々やコミュニティが実際に協調し、環境問題への処方箋を個々に気付き、実践できる状況にある事も注目される。また、実践の成果は分かりやすく加工された情報となって還流し、さらに、人々の意識を高め、智識や協調が洗練されていく自律循環を生み出すことも可能である。
地球環境問題への取組としては、産業部門から都市交通や家庭等の民生部門へと対策の重点が移っているが、組織的管理機能が強い企業等と違って、学校や一般家庭等の自由さと多様な価値観が入り混じる地域コミュニティでの対策はきわめて難しく最大の課題となっている。
これまでは、機器やシステムの供給者ができ得る技術的な革新の方に注力してきたが、もはやそれが限界に近づいており、今後は、それらを利用する側が使い方を工夫する事によって、技術革新で得られる効果を目に見える形にして向上させなければならない。しかも、単独で工夫するのではなく、環境を共有する人々や家族、コミュニティが相互に理解、扶助、協調しながら工夫することによって、強制的ではなく自律的でポジティブな環境行動へと繋げることができる。この時の社会では、まさに、「させられる環境対策」ではなく「やりたくなる環境対策」が主流となり、その協調行動こそが付加価値ある新たな活動へと直結していくことが予想される。
技術発展による地球環境問題への新たな取組の可能性
研究開発計画の概要
研究開発活動を通して、マルチベンダ環境ならびにマルチサブシステム環境における、統合的エリアマネージメントシステムの管理制御技術を研究開発し、その運用技術の確立を目指す。本活動の成果は、省エネおよび環境対策という視点でとらえれば、大規模キャンパスおよびメトロコリタンにおける「人」を中心に据えた、いわば、「エネルギーサプライドチェーン管理制御システム」の構築に資する活動であると位置づけたい。
- ファシリティーマネージメントシステムの稼働実態の正確な計測と解析
- マルチベンダー、マルチサブシステム環境での統合的データ収集技術の確立
- 大学における総合教育研究棟におけるデータ収集指針の確立
- 計測データの解析・表示による効果の検証
- 先進的制御技術・制御システムの導入とその効果の検証
東京大学 工学部 2号館(2005年竣工 地上12階 総合研究教育棟)を用いて、総合的で先進的なファシリティー マネージメントシステム技術の検証と評価、さらに、運用技術の確立を目指すとともに、本実証実験フィールドでの成果を、他の大学組織への横展開と、公共施設等への縦展開に資する研究開発成果を目指す。以下に、本共同研究コンソーシアムにおける研究開発計画の概要を述べる。
(1)ファシリティーマネージメントシステムの稼働実態の正確な計測と解析
(a)マルチベンダー、マルチサブシステム環境での統合的データ収集技術の確立
第一に、これまでの、省エネルギー対策に代表されるビルシステムなどのファシリティーシステムにおける管理制御システムは、複数のサブシステムから構成され、それらのサブシステムはベンダーごとに定義された独自の技術仕様に基づいたものが多く、サブシステム間でのデータの相互可用性の確保が容易ではなく、実運用においては、これら複数のサブシステム間での協調した管理制御は、ほとんど行われることがなかった。サブシステムとは、具体的には、空調システム、照明システム、セキュリティーシステム、電源供給システムなどである。
すなわち、これまでの、FNICコンソーシアムにおける研究開発活動の成果を導入展開し、複数のマルチベンダーからなるサブシステム間での、計測・制御データの相互乗り入れ環境の構築に必要な技術仕様の策定と実システムにおける導入と、その動作検証を行う。
サブシステム間での統合的な計測・制御データの相互乗り入れに必要な技術仕様は、関連する技術標準化機関への提案などを行い、その普及と標準化を推進する。
第二に、既に竣工しているファシリティーに対して、システムの稼働実態の正確で実践的な計測を可能とするための、測定技術と解析技術の確立を行う。既存システムへの計測装置の導入は、容易ではない。
本研究活動を通して、実践的でコストエフェクティブな、付加的装置導入や既存装置の利用による、既竣工ファシリティーに対するシステムの稼働実態に関する計測・解析技術を確立する。
このような、マルチベンダー環境でのファシリティーマネージメントの実現に資する技術の確立は、サステイナブルなファシリティーシステムの実現を可能にする。すなわち、継続的な先進技術の導入と、複数技術の共存(システムのAvailability性の向上)を可能なものにし、ファシリティーシステムの継続的進化と稼働信頼性の向上の実現に資する。(b)大学における総合教育研究棟におけるデータ収集指針の確立
大学等の教育研究施設(ならびに公共設備)における、環境対策や省エネ対策に利用可能な、ファシリティー(ビルそのものだけではなく、その中で稼働する実験装置などを含む)の計測と制御に対する指針は、残念ながら存在しない。本活動では、大学において実稼働中の総合教育研究棟を用いたデータの収集・解析活動であり、これを通じて、大学等の教育研究施設における、その稼働状態の把握に必要なデータ収集指針を検討し、その効果を検証する。
その性質上、大学等における研究教育施設すべてに同様のデータ収集指針をそのまま適用することは不可能であると考えられるが、同様の研究教育施設への横展開に際して、重要で有用な知見を提供することができると考えられる。
特に、実験研究設備の稼働状況の計測と解析結果の提示のための要素技術と運用技術の確立は、これまで、ほとんど取り組まれてこなかったものである。
(2)計測データの解析・表示による効果の検証
(a)マルチベンダー、マルチサブシステム環境での統合的データ収集技術の確立
既に、計測データの解析結果を、ファシリティーの運用者および利用者に表示ならびにフィードバックすることで、利用者の活動形態が改善され、活動の効率化や省エネが実現されることが知られている。
しかしながら、既存の実績の多くは、工場や事業所などユーザへの統制が比較的容易な場合である。
今回取り組む、大学における総合教育研究棟は、利用者の統制が容易ではない典型的な事例であり、解析されたデータの表示方法・通知方法の研究開発とその効果の検証は、これまで、ほとんど取り組まれた実績がない。
また、同様の教育研究施設は、決して少なくなく、また、その電力消費量も少なくない。
すなわち、一見特殊なファシリティーにおける効果の検証を行う実証実験に見えるが、事実上の社会に対する影響の大きは決して小さくない。
(3)先進的制御技術・制御システムの導入とその効果の検証
計測・解析したデータをもとに、ファシリティーの管理・制御を行わなければならない。
データの測定に関しても、どのような測定システムならびに測定技術が、このような環境に効果的であるのか。
どのように、既設のファシリティーに、付加的な測定装置を設置し運用するのか、また、どのような測定データならびに測定装置が、効果的な管理制御に資するのか。各サブシステム間での連携動作を前提にした場合に、どのような測定データが、効果的なのか。
例えば、講義室や会議室のオンライン予約システムと、空調システム・照明システム・セキュリティーシステムの連携による管理制御などは、その典型的な例としてあげられよう。
また、RF-IDタグなどを用いた、利用者の位置情報の取得も、すでに、導入可能な状況であり、その効果の大きさと対費用効果の評価も行うことが可能であろう。
すなわち、稼働状態の測定は、既存設備に対するものだけではなく、ファシリティーの中で活動する人をも含むことが可能であるし、人を含んだ、統合的ファシリティーシステムの管理制御技術の研究開発を行い、その効果を実環境において数値的に検証することを目指す。
個々の機器の限界を越えるには、利用者主体の視点から見直しをしなければならない。ファシリティーにおける設備管理を機器の管理からそこを利用する者たちの活動状況に合わせたものにしていく柔軟性を持たせたものにしていく必要がある。個別機器の限界とは、機器の効率性という視点からの話であって利用者の活動に合わせるということは、利用者にとっての有効性という視点になる。すなわち、効率性から有効性への視点の変換を意味する。有効性という価値観から、ファシリティーにおける設備管理を見直しそれらを実現しようとすると、現状の機器個別の技術に対して情報を付加していくことが必要となる。また、個々の利用形態は常に変化をしていくことに対して柔軟性を持たせるためには、利用形態の変化をデータとして取得し情報化していきながら迅速な情報伝達が求められる。
以上のような、研究開発活動を通して、マルチベンダ環境ならびにマルチサブシステム環境における、統合的エリアマネージメントシステムの管理制御技術を研究開発し、その運用技術の確立を目指す。
本活動の成果は、省エネおよび環境対策という視点でとらえれば、大規模キャンパスおよびメトロコリタンにおける「人」を中心に据えた、いわば、「エネルギーサプライドチェーン管理制御システム」の構築に資する活動であると位置づけられよう。









