東京大学グリーンICTプロジェクト

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ご挨拶

GUTPの活動主旨

グリーンを梃子にして(with green as a leverage)、「インターネット技術に基づいたオープン技術を用いた持続的イノベーションを実現する施設インフラの構築」が、東大グリーンICTプロジェクト(GUTP: Green University of Tokyo Project)の活動趣旨です。
すなわち、インターネット技術を用いたSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を実現する施設インフラの実現です。単体のビル施設における実証実験を最重要視した我々の研究開発活動は、キャンパスレベルを経て、グリーンでスマートなSDGsを実現する街の設計構築へと拡大・進化してきています。インターネットがそうであるように、ローカルな自律システムが、共通の技術を用いて協調動作することで、大規模(キャンパス・街・グローバル)な自律分散協調インフラを設計・構築・運用することを目指しています。
さらに、GUTPでは、一企業あるいは国内の市場に閉じた活動ではなく、グローバル市場での展開を前提とした研究開発活動を目標としています。

GUTP発足のきっかけ

GUTPは、2008年にこの趣旨を実現するために、学内外の皆様のご理解とご支援をいただき、「グリーン東大工学部プロジェクト」として正式な活動を起動しました。
しかし、発足のきっかけは、2002年に遡ります。ある企業の新本社ビルの設計に関係した際、ビルが独自技術による閉域システムの集合体となっていること、さらに、ビルの運営経費の約3割程度がエネルギーによるもの(つまり大きな市場規模が期待可能)であると教えて頂いたことに起因します。これを、次世代のインターネットプロトコルであったIPv6(IP version 6)を用いて実現するために、2002年12月に「IPv6普及高度化推進協議会」の中に Building Automation分科会を、2006年12月には「ファシリティー・ネットワーキング相互接続コンソーシアム(FNIC: Facility Networking Interoperability Consortium)を、GUTP発足時のコアメンバーの方々と発足させました。

GUTPの活動は先進的「PoC(概念実証)」

設立当初、インターネット技術(TCP/IP)を用いて、それまでの独自技術による閉域システムの垣根を消滅させる(=“De-Silo-ing”)とともに、新しく導入されるセンサーなどのIT機器との持続的な統合化と連携を実現させることを目的としました。
さらに、たくさんの実証実験を通じて、グリーン(=省エネ・節電)を梃子にして、それ以外の、(1)「安全対策(事業継続計画 BCP: Business Continuity Planning)、(2)「効率化(TPM: Total Productivity Management)と品質向上(TQC: Total Quality Control、TQM: Total Quality Management)」、そして、(3) 新サービスの発見と創造 が同時に実現されることが確認され、それは“確信”に変わりました。
1つのスマートに設計されたシステムが、同時に複数の機能を実現・提供するプラットフォーム型のエコシステムであり、Multiple-Payoffによる投資効率の向上です。しかも、このすべての機能が、データの量と質の向上とともに、持続的な性能改善とイノベーションが実現可能になるのです。

知のオープン化を国際標準プロトコルで実現

GUTPでは、地球上に存在する多数の組織が設置する多種多様なセンサーから構成するグローバル・センサー・ネットワークの研究開発(Live E! プロジェクト, http://www.live-e.org)から生まれたFIAP(Facility Information Access Protocol for Data-Centric Building Automation System)を用いて実証環境によって確認することに成功しました。
FIAPは、中国の協力組織との連携によって、2011年にIEEE-SAにおいてIEEE1888(UGCCNet: Ubiquitous Green Community Control Network)として、さらに、ISO/IEC JTC1 によって2015年3月にISO/IEC/IEEE 18880として、グローバル&国際標準として承認されました。

通信プロトコルからアーキテクチャへの発展

IEEE1888は、アプリケーション層、データ蓄積層、フィールドシステム層の3層から構成される、データセントリックなシステムアーキテクチャとすることで、以下の特長を持っています。

1. ビッグデータや人工知能などのアプリケーション・ベンダーの技術面およびビジネス面での独立性の確保と新規参入障壁の低減
2. 減価償却期間が20-30年となる既存フィールドシステムへのGW(ゲートウェイ)を用いた暫定的対応/対処の許容
3. TCP/IPを用いた新しいIT機器の導入障壁の削減
これらの特長によって、「ビッグデータ」、「IoT: Internet of Things あるいは IoE: Internet of Everything」、さらに「人工知能」の実現にとって、大障害となっていた「Stove-and-Pipe Model」とも呼ばれる垂直統合型のサイロ(silo)型のシステム・ビジネス構造を、“De-Silo-ing”して水平統合型の構造にスムーズに移行(Migration)させることを可能にする、理想・理論先行ではない、実践主義的注1システム構成としています。


1 “We reject king, president and voting, we believe rough consensus and running code”, by Dr.David Clarke (MIT) at INET92 in Kobe, Japan.

サイバーセキュリティ対策の必要性

これまでの施設システムは、外部ネットワークへの接続を前提としない設計・実装となっており、ほとんどサイバーセキュリティ対策が考慮されない&実装されないシステムとなっていました。しかし、すでに、既存の施設システムのオンライン化と外部システムとの接続は、回避不可能な状況になっており、「外部システムとの接続を前提とした対処法の実施が“必須”のものとなっています。
すなわち、(1)既存の施設システムへの効率的で効果的な対応方法と、(2)新規システムに対する Security-by-Designの考え方に沿った設計・実装・運用の2つの軸が実践・実現されなければなりません。
このような背景のもと、IEEE1888.3では、基本的なTCP/IPシステムにおけるサイバーセキュリティ対策を定義したのです。統合的で実践的なサイバーセキュリティ対策フレームワークの研究開発と実システムへの導入・展開が必要であり、政府との戦略的な連携も行っています。


1 “We reject king, president and voting, we believe rough consensus and running code”, by Dr.David Clarke (MIT) at INET92 in Kobe, Japan.

オープンデータシステムの実現

最後に、すべての施設システムを相互接続し、施設システムの運用管理者だけではなく、施設システムのユーザもデータの利用とシステムの管理制御が可能なシステム環境が提供されなければ、本当の意味でインターネット技術を用いたSDGsを実現するシステムとは言えないと考えています。
すなわち、インターネットの「エンド・ツー・エンドの原則」を実現するに資するシステムアーキテクチャを実現しなければなりません。IEEE1888はデータ・セントリックなシステムアーキテクチャであり、我々は、すべてのディジタルデータが多種多様なアプリケーション・ベンダーによって参照・利用可能にする オブジェクト指向型のデータモデル記述(DMD: Data Model Description)に基づいたLOD(Linked Open Data)に代表されるオープンデータシステムを実現しなければなりません。具体的な、BIM(Building Information Model)やCIM(Construction Information Model とCivil Integrated Management)に基づいた次世代の施設システムおよびスマートシティーにおけるデータシステムの設計・実装・構築ならびにその運用です。

インターネットbyデザインで世界を変える

すなわち、GUTPは、インターネット技術を用いたSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を実現するスマートな社会インフラの実現を目指しています。実証実験を最重要視した研究開発活動であり、インターネットがそうであるように、ローカルな自律システムが、共通の技術を用いて協調動作することで、大規模(キャンパス・街・グローバル)な自律分散協調インフラを設計・構築・運用されることを目標としています。

2018年6月
東大グリーンICTプロジェクト 代表
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授
江崎 浩